音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
どうして昔の話を持ち出すのかな? あたしだって、いつまでも幼い子供ではない。 だから、普段は転ばないんだからっ。
「最近、体調どうなんだ?」
さりげなく、いっくんが聞いてきた。
「普通だよ。 この間風邪引いたけど…… もう大丈夫」
「喘息は?」
「中学生の時に発作起きて以来無し」
どうだ! あたしだって少しずつだけど良い方向へ向かっているんだ。
いつまでも体が弱い訳じゃない。
「そういえば…… 今日、バイトは?」
「休みー。 じゃなきゃ、お前みたいな“バカ”を送って行かない」
「そーですか」
“バカ”を強調されたところは、若干気になる。
せっかく、お茶の1杯を、ご馳走しようと思ったのに……。
絶ッ対、あげないんだから。
いっくんの、バーカッ!
「ほら、着いた」
「ありがと、助かった」
結局、玄関の前まで送ってもらった。
「荷物運んでおいてやるから」
そして、荷物までも家に入れてもらってしまった。