音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
ここまできたら……。
「お茶でも飲んでいく? 送ってもらったお礼に」
「んじゃあ…… そうさせてもらう。 まおがそんな事を言うのは、珍しいからな」
はー? 人がせっかく言ってやったのに“珍しい”って失礼だ。
誰もいないリビングにいっくんを通し、あたしはキッチンへ入る。
「ミルクティーとストレートティーと…… あぁ、コーヒーもあるけど。
…… ミルクティーがいいよね」
「俺が決めるんじゃねぇの?」
「ミルクティー…… 好きでしょ?」
「それは、まおだろ?
もう、ミルクティー“で”いいよ。 ミルクティー“で”」
やけっぱちのように言われた。
「よかった。 あたしもミルクティー飲みたかったから、楽チン」
ママは買い物へ行ったのか家には居らず、理央ちゃんも部活でまだ学校。
ポコポコとコップにお湯に入れ、スプーンでクルクルかき混ぜた。
「はい」
いっくんの前に、カップを差し出す。
「サンキュー」
「コーヒー入れてあげたんだからもっと喜びなさいよ」
「あーうれしー、うれしー」