音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~




…… やっぱり淹れてあげるんじゃなかった。

いっくんが喜ぶと思って、淹れたのに。


「来年のクラスどこにした?」


いっくんの向かいに座り、ミルクティーを一口飲んだ。


「んー、一応理数クラスだけど。 いっくんは?」


「俺も理数系クラス」


あたしの学校は2年生に進級する時にクラス替えがある。

理数クラス、文系クラスの2クラスずつに別れる。


「陽太くんは?」


「陽太も一緒」


優ちゃんも理数クラスを選択していたから4人で同じクラスだったらいいな。

そうしたら、毎日が絶対に楽しそう。


「いっ―――」

いっくんに話しかけようとしたら――― キーン!!


右耳から聞こえてきた、高い音の耳鳴り。


…… また?


「まお?」


途中で話を辞めたあたしを不思議に思い、いっくんが声をかける。


「何でもない」


“いっくんさー”と、続けるはずだった。

でも。 ――― キーン、キーン!!


最近、時間や場所なんて関係なく、よく耳鳴りがする。

直ぐに鳴り止めばいいが、困ったことに、何時間も鳴り続ける。




< 54 / 557 >

この作品をシェア

pagetop