音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
キーン、キーン、キーン……。
「どうした?」
耳を押さえて、何もしゃべらないあたしに何気なく、声をかけてきた。
「…… なんか耳鳴りするの」
ここ数日の悩みを、いっくんに話してみる。
ミルクティーを机に置く。
「疲れているんじゃね?」
「最近夜もあまり寝ていないからかな?」
夜中だってお構いなしに耳鳴りが鳴り続けるから、気になって、気になって――― しょうがない。
そのせいか、毎日夜眠るのは日付が変わってから。
もう時期春休みになる。 それまでの我慢だ。
「早く寝ろよ?」
「はーい」
その時、玄関が“ガチャガチャ”と開く音が聞こえた。
「ただいまー」
「理央ちゃん、おかえりー。 いっくんもいるよ」
「樹くんが!?」
バタバタと足音を鳴らしながら…… “バンッ”と勢いよくドアを開いた。
「今日って樹くんが来る日だった?」
リビングのドアを開けて、目を大きくして理央ちゃんが立っている。
「理央ちゃん、おかえり。 俺はまおを送ってきただけ。 そうそう、こいつ朝、登校中に転んだんだ。 だからちょっと消毒してやって。
…… 理央ちゃんも帰ってきたことだし、俺は帰るな」