音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~




「理央ちゃん、いるかな?」


テニス部の理央ちゃんを捜すため、ちょっとスピードを緩める。 グラウンド奥にあるテニスコートを覗くが…… 見えない。

サッカー部がジャマなんだよ……。


1年前は自分も通っていたはずなのに…… 少し、懐かしく感じる。



「まおっ!」


「あっ!! “いっくん”おはよ」


「だからその呼び方やめろ。 俺だって高1」


「いいじゃん」



近所に住んでいる前田 樹(マエダ・イツキ)があたしに追い付いた。


“いっくん”とは保育園から小学1年生までずっと仲良くしていた。


でも小1にある日……。 両親の仕事の都合で遠くに引っ越してしまった。

でも、高校入学を機会にまた戻ってきた。


引っ越して以来、あたし達は全く連絡は取っていなかった。 でも、仲のよかったママたち同士はちょくちょく連絡を取っていたみたい。



「理央ちゃんでも探していたのか?」


「まあね。 朝練やっているかなーって思って」


「やっていると思うけど…… 見えないんじゃねーの?」


「そうだけど…… 見えたらラッキーじゃん」


「バカか……」





< 6 / 557 >

この作品をシェア

pagetop