音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
ウソツキ
音楽を掛けて、春休みの課題に手をつける。
こんなことしたって意味が無いことくらい…… 分かっている。
課題が頭に入っていない事は一目瞭然。
それでも、今は……。
自分が“突発性難聴”かも…… と言う“現実”から逃げたい。
…… もしあたしが“難聴”だと分かったたらどうなる?
“平気で外を歩ける?”
“買い物へ行くことができる?”
“学校、行ける?”
“授業についていける?”
考えれば考えるほどあたしの中に不安の種が増えていく。
がむしゃらにノートに文字を書き込んだってあたしの気持ちは優れない。
その時、ガチャっ――― と、ドアが開いた。
「まおー、調べてみた?」
「調べたよ」
あたしは演技上手だ。
ざわざわ騒ぎ立てる胸の鼓動を隠しながら、ママにとびっきり笑顔で微笑みかけるなんて…… 将来は女優も夢じゃないかも?