音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
「何か聞きたいことありますか?」
「…… 特に無いです」
頭の中なんて真っ白。
先生が言ったことなんか頭からほとんど吹っ飛んだ。
「これから一緒に頑張りましょう」
診察室を出る時に先生がそう言ってくれたけど、あたしはただ…… “はい、頑張ります”と…… これを言うだけで精一杯。
噛みしめていたせいで口内は血の味が広がっている。
でも、涙は流さない……。
会計を終え車のシートに腰かけたけどママもあたしも何一つ喋ろうとしない。
あたしは今、喋ったらきっと泣いてしまうかもしれない。
「アイスとパン、どっちに最初に行く?」
アイスとパンか……。
あたしもどっちから行こうか考えていたけど、それは診断される前だ。
たった数分の間に繰り広げられた事が夢のようで…… 明日起きたら何も無かったように変わらない生活が待っているような感じがする。
「まお?」
「アイスはいいや…… パンだけ買って帰ろ」