音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
「ごちそうさま」
妙に重い空気が流れる中、夕ご飯を食べ終えた。
普段なら笑い声が飛び交っているけど…… 今日は誰一人話そうとしない。
その原因はあたしなんだけどね……。
「ご飯食べたな早く薬飲みなさい」
「…… なんの?」
「耳鼻科に決まっているでしょ? これから毎日耳鼻科から薬出ているんだから」
“耳鼻科から薬”
そっか…… あたし“難聴”なんだよね。
――― 忘れてた。
コップに山盛りに水を汲み、薬を飲む。
「可愛い形だなー」
あたしの中で薬は丸やカプセルのイメージが強かったけど、あたしがこれからお付き合いしていく難聴の薬には……。
「五角形なんて珍しい……」
初めて見る薬についつい笑みが溢れた。
「まお―――」
パパの優しい声であたしを呼ぶ―――。