音のない世界 ~もう戻らないこの瞬間~
「木下さん、検査しますねー」
この間と同じ少し薄暗い検査室。
今日は診察より先に“聴力検査”が行われる。
“これから毎回来た時は検査してもらうからね”
そう言われたんだ。
痛くないから、検査がキライってわけじゃない。
ただ…… また左右の聴力が重なっていないグラフを見るのが怖い。
あのグラフを見ると、あたしが“――― 難聴”と言う現実に襲われ、胸がギューっとなる。
たった3日で“――― 難聴”を受け入れるなんてあたしには出来なかった。
それに、毎朝起きるとホッとする。
「今日も聞こえている―――」
毎朝ムカつくくらい規則正しく鳴るアラームを聞くとまだあたしの聴力が残っているのを実感する。
同時に今日も1日“まだ大丈夫”って思える。
「木下さん、どうぞ」
「はいっ」
待合室で先生に名前を呼ばれた。
今日はあたし1人で診察だ。