kiss me please─甘い口付けを─
「…遅い」
亜紀は10分をたっても現れない徹也くんにだんだん苛立ってきているようだ。
家にいたなら、10分で急げばつくけれどどこか別の場所にいたらその時点で無理な気がする。
「別に、あたしなら大丈夫だから…」
「あたしがよくない!」
まるで自分のことのように怒ってくれる亜紀とまるで見知らぬ人のことのように他人行儀なあたし。
完全に立場が逆。
そんなとき、『ピーンポーン』と来訪を知らせるチャイムがなる。
「あ、来たかなっ!」
亜紀は部屋を飛び出して、お母さんが応対しているであろう玄関まで急いだ。
あたしはというと、一応亜紀を追いかけるもの足取りは至ってゆっくりだ。
少し歩いて、玄関まで見える位置に来るとさっきまで急いでいた亜紀が立ち止まっている。
そして、その先に見えるのは徹也くんと
……隼人。
まさか、本当に来るとは思わなかった。
昨日フッた女の家にこれるなんていい度胸。
あたしはきっと何も出来ないけど。
「あら柚季、お客さんよ。
隼人くんと…そのお友だちかしら?
まあゆっくりしていってね」
お母さんはあたしをみつけるなりそう言ってリビングに戻っていった。
「さて、どういうことか本人の口から話してもらおうじゃない。
あんたさ、気持ち冷めたなんて嘘なんでしょ?
でも、バレバレの嘘でも信じて傷ついてる柚季をどうやって癒す?」
隼人のところまで亜紀は歩いて行って胸ぐらを掴んでそう言った。