kiss me please─甘い口付けを─
亜紀は、優しい。


あたしが何も言えないことをわかってるから、
全部変わりに言ってくれてるんだ。


あぁ、弱い自分。

こんなんじゃフラれて当然かな?


「……言えない」


「はぁ?ここまで来て今更何も言えないですか」

亜紀は更に服をつかむ手に力をこめたらしく、慌てて徹也くんがとめに入った。

「亜紀っ、俺が無理矢理連れてきただけだから。
あんまり隼人せめないでくれ」


「あーそうやって意味不明な隼人を庇うわけ」


へー、見損なったわ、なんて呟く亜紀。


これは、やばい。


あたしたちふたりならまだともかく。


亜紀たちの仲まで壊してしまったら、さすがに自分が大嫌いになりそうだ。


「あ、のっ!
とりあえず、部屋に行きませんか…?」

やっとのことで会話に参加して、

部屋に入るように促す。


その間も亜紀は何かを呟いたりしていたけど、あたしは何も言えなかった。


なんて弱い自分。


言いたいことも言えず、人に言わせてばかりで。

もう最悪。


全員が部屋に入って、それぞれが適当に腰かける。


しばらくの沈黙が続いたあと、徹也くんがそれを破った。


「隼人、話せよ」


「…やだよ」


「じゃなきゃお前一生恨まれるって」


「いいよ」


話が読めない。

ただ、隼人に何かを話させようとする徹也くんと、それを頑なに拒む隼人がいる。


「恨んで憎んで、それで。
他のやつと幸せになればいい」

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