kiss me please─甘い口付けを─
隼人がそう言った瞬間、あたしの涙腺は壊れたようで、涙が溢れてくる。


隼人の未来に、あたしはいない。

フラれた時点でそんなことわかりきっているのに、改めて実感するとキツイ。


目の前が涙で滲んでよく見えない。


ゆえに隼人が今どんな顔をしているかも、わからない。

だけど涙を拭うことはしなかった。


見たくなかったから。

見るのが怖かったから。



「…そんなことカケラも思ってないくせに」


「あーもう!
黙って聞いてりゃなんなのよ!

話すことあるならさっさと話しなさいよ!
柚季も泣かないで?」


しびれを切らした亜紀がイライラした口調で隼人に詰め寄った。


「だから、話すことなんてないって。」

あくまでも、しらを通しきるらしい隼人はそっけなく言い放つ。


あたしの心の中は複雑で。
聞きたいと思う反面、これ以上傷つきたくないと思うのも確かだった。



「あんたさ、嘘つくのホント下手。
今の顔どう考えても今すぐ柚季を抱き締めたいって顔してるよ」


どんな顔よ、それ。

次から次へと流れてくる涙で隼人の表情は見えないままのあたしは心の中で自嘲的なつっこみをいれる。


まだ、それくらいの元気はあるらしい。


それは多分、まだ望みを捨ててないから。


涙を拭わないのだって、
心の奥では隼人が拭ってくれると思ってるから。



結局まだあたしは隼人のことを信じてるんだ。


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