無防備な君に恋をする
だからさ。
「……それがムカツクって言ってんの」
「……え?」
涙をすくっていた手を、伊織の後頭部に回す。
そしてグイッと引き寄せる。
昨日はおでこで我慢してやったんだから。
今日くらい、いいだろ?
伊織の唇に、自分の唇を重ねる。
スッと離れ、数センチの距離で見つめ合う。
伊織は、状況についていけていないらしく、瞬きを繰り返す。
「……波留、先パイ……?」
その声に、俺はハッとする。
待て、ちょっと待て。
俺、今、コイツに、キス、した?
……最悪。
俺は何事もなかったように立ち上がる。
後ろから、伊織の声が聞こえたけど、振り返らなかった。
廊下をしばらく行き、曲がり角の壁に背を預ける。
「……ありえねー」
両目を手で覆い、天井を仰ぐ。
無意識にキスするとか、信じらんねぇ。
どうやら、完璧に、アイツにハマったらしい。