銀のしずくふるふる 金のしずくふるふる
次の日。

学校はいつもと同じだった。

誰もオプニカのことを話したりはしない。

ただ、佐藤の耳の絆創膏はちらちらと見られていたみたいだけれど。

小森も桜井も田口も山中も、すっかり普段の顔だった。

もちろん佐藤も。

張り切って朝7時から野球部の朝練をこなしていた。

でも舞だけは、この暗黙の決まりがわからない。

教えてなかった俺も悪いけど、朝一に佐藤の顔を見て、大丈夫? を連呼したらしい。

「別に俺はいいけどさ。他の連中がさ」

佐藤が昼休み、生徒会室にやってきて苦言を呈してくれた。

「悪い、ちゃんといっとくよ」

「頼むよ。会長」

俺はあと三ヶ月後にせまった学校祭の計画表を壁に貼りながらうなずく。

オプニカが終わって二週間後に定期テスト。

そして三ヶ月後に学校祭。

佐藤は手に単語帳をもっている。

秋の大会も近いし、なかなかハードスケジュールなんだろう。

「でも、まじで傷はどうなわけ?」

模造紙一枚にマジックで大きく書かれた各委員会の計画表を、へええ、とみあげていた佐藤は、ああ、とうなずいた。

「あと数日で治るって母さんがいってる、ラウラウの根を潰して塗ってくれた」

「で、あんとき、まじでどっちだったわけ? 切られた? 切った?」

佐藤は、小さくため息をついて、俺の顔を正面から見据えた。

こうしてみると、舞が、佐藤は人気のアイドルにそっくりだというのがよくわかる。

大きく長く切れた目。しっかりと筋の通った鼻。彫刻みたいにくっきりとした唇。

「切られた」

ギリシャ彫刻張りの口はそう動くと堅く閉じた。

そして、俺がなにかいおうとしたとたん、、佐藤はすうっと出ていってしまった。

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