『natural source』(naturally番外編)
苦しげなリンの声。

そんなリンを力を振り絞り、抱きしめることしか出来ない無力な僕。


「リンっていう一人の人間を必要としてくれたことが嬉しかった……」


それでもリンを抱きしめておきたかった。

もう、叶わない願いになる前に。






朝、起きればリンの姿は無くなっていた。

昨日のリンは高熱が見せた幻だったのかもしれない……。

そう思った瞬間、何もかもがどうでも良くなった。


僕を取り巻いていた全てが無くなって、頭も胸も空っぽになった。





相変わらず庭は穏やかな時間が流れている。


部屋にいても鬱ぐばっかりの気持ちを晴らしたかったけど、ここにいたらリンを思い出してますます鬱ぐかも……。



「あーっ! 病み上がりに出歩いたりしてっ!」

「……えっ?」

「昨日倒れたばかりなのに……」



視線を上げれば、少し困ったようなリンの表情。


「なんでっ!? フルムに帰ったんじゃ……」


びっくりして立ち上がった僕に少し驚いた顔をしたリン。

次の瞬間、いつもの満面の笑みが勢い良く近づいてきた。


「シューゴ様を置いてなんか行けないでしょっ?」

「でも」

「タクト王子なら姉に取られちゃった」

「はぁ?」
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