『natural source』(naturally番外編)
ランシェ様との婚姻を控えたわたしは、マリッジブルーと呼ぶには重くて暗い気持ちを拭い切れずにいた。


元々復讐を果たせば行方をくらませるつもりだった。


復讐も果たせず、ランシェ様の足枷になりながら生きていくくらいなら……いっそ逃げ出してしまおうか。


そんな気持ちを抱えて向かった両親の墓前で、


「…………え」


意外な後ろ姿を見つけて思わず足を止めた。


綺麗な花束を供えて、熱心に手を合わせるランシェ様の姿。


……きっと今顔を合わせれば決心は鈍ってしまう。


そう思って踵を返そうとしたその時だった。


「本当は……復讐を遂げたアンジュを連れて、逃げようと思っていました」


静かな声で深々と頭を下げ、


「でも出来なかった……あなた方の事でずっと苦しんでいた分、これからのアンジュには幸せに笑ってて欲しいから」


低く呟いた姿はまるで両親に詫びているように見えた。


……全てはわたしが成し遂げようとした罪なのに。
それをまるで自分の事のように言うランシェ様に視界がじわりと滲んだ。

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