達人
ついに。

ついに達人の強さを体で感じ取る事ができる。

俺は昂揚する。

が。

「達人…道着に着替えなくていいんですか?」

達人は全くの普段着だった。

稽古をするならば道着に着替えなければ、動きづらいだろう。

そう思って言うと。

「ふははははははははっ!」

何故か、達人は大笑いした。

こんな可笑しい事はないといわんばかりに。

「な…何か…?」

「丹下君、例えば君が街を歩いている時に、数人の暴漢に襲われたとします」

突然達人は例え話をし始めた。

「その時に君は暴漢達に言うんですか?『今は普段着だから、道着に着替えるまで待ってくれ』と」

「!!」

その言葉に驚愕した。

「実戦というのはいつも突然己の身に降りかかるものです。普段着だから、今寝てるから、食事をしているから…そんな理由が通るほど甘いものじゃない」

達人は俺の目の前で自然体を取った。

「さぁ、はじめましょうか」


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