達人
達人の発想にはとにかく驚かされるばかりだ。
ある日の事。
俺は道場で貫手(ぬきて)の稽古をしていた。
巻藁に手刀を打ち込み、指先を鍛える。
何度も何度も打ち込み、表皮が固く硬質化した指先は、まさしく刃のように切れ味を増し、強力な武器となる。
しかし。
「丹下君」
その様子を見ていた達人が言う。
「そのような無駄な稽古はしなくていい」
「え?」
またも俺は絶句する。
貫手の稽古が無駄とは…。
言葉に窮していると。
「丹下君、君は獣ですか?猛禽類ですか?爪や牙で戦う野生動物ですか?」
達人は俺の考えを見透かすように笑みを浮かべて言った。
「人間は爪や牙で戦うようには出来ていない代わりに、獣にはない知性がある。無理に爪や牙を鍛えるのならば、武器を手にした方が効率的です。武器がない時の戦い方など、爪や牙がなくとも対処できる」
つまり、無闇に五体を鍛え込むだけが能ではないと。
達人はそう言いたかったのだ。
ある日の事。
俺は道場で貫手(ぬきて)の稽古をしていた。
巻藁に手刀を打ち込み、指先を鍛える。
何度も何度も打ち込み、表皮が固く硬質化した指先は、まさしく刃のように切れ味を増し、強力な武器となる。
しかし。
「丹下君」
その様子を見ていた達人が言う。
「そのような無駄な稽古はしなくていい」
「え?」
またも俺は絶句する。
貫手の稽古が無駄とは…。
言葉に窮していると。
「丹下君、君は獣ですか?猛禽類ですか?爪や牙で戦う野生動物ですか?」
達人は俺の考えを見透かすように笑みを浮かべて言った。
「人間は爪や牙で戦うようには出来ていない代わりに、獣にはない知性がある。無理に爪や牙を鍛えるのならば、武器を手にした方が効率的です。武器がない時の戦い方など、爪や牙がなくとも対処できる」
つまり、無闇に五体を鍛え込むだけが能ではないと。
達人はそう言いたかったのだ。