達人
ここまで『常在戦場』に徹している人だと、俺などは隙だらけに見える事だろう。

普段着だろうと、何気なくテーブルの上に物を置いていようと、達人は全て不意に起こるかもしれない戦いに備えているのだ。

…この平和な世の中に、構えすぎだと思うかもしれない。

しかし世の中の流れがどうであろうと、この人はその姿勢を絶対に崩さない。

「自分だけは大丈夫だと思わない事です。犯罪や、事件や、戦争が対岸の火事だと思わない事です。いずれ己の身にも降りかかるかもしれない。その覚悟があるだけでも、危機に陥った時の対処の仕方が大きく変わってくる」

周りが自分の事を達人、達人と持て囃すが、私はそうは思った事はないと。

自分が達人だと思った事はないと。

達人は言い放った。

「私は他人よりも臆病なだけです。だからこそ備えは万全にしておきたいし、あるゆる事態を想定しておきたい。私は長生きがしたいんです」

そう言って達人は笑った。

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