達人
「さて」

話を終えたところで達人は立ち上がる。

ここは道場の真ん中。

俺は空手の道着を、達人は合気道の道着を身にまとっている。

「丹下君…少し手合わせしてみましょうか」

「…っ」

その言葉に、ゴクリと唾を飲んだ。

先日の立ち合いの時に、全く勝負にならなかった事を思い出す。

俺は達人に、触れる事すらかなわず戦意を挫かれた。

実力の違いというよりは格の違い。

これ程の力量差のある相手と立ち合うなど…。

一ヶ月を費やしてみても、まるで勝てる気がしなかった。



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