達人
フッと。

達人から殺気が消え失せた。

「心配しなくていい。毒など盛ってはいないよ」

元の温和な笑みを浮かべ、達人は再び座した。

「……っ……」

その言葉に、一気に緊張が緩み、硬く張り詰めていた全身の筋肉が弛緩する。

「だが」

達人は言葉を連ねた。

「茶の味を知らぬ…元の茶の味が分からぬという事は、毒を盛られてもその味の変化に気づかぬという事…」

「!!」

愕然とする。

それ程の高い意識で、達人は日常を過ごしているというのか。

もしかしたら毒を盛られるかもしれない。

もしかしたら寝込みを襲われるかもしれない。

もしかしたら風呂の途中で攻撃を受けるかもしれない。

常に戦う事を想定して、この人は日常を送っている。

まさに常在戦場だった。

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