恋 理~renri~


賑やかな2人がいなくなった途端、唖然とする私をよそに隣から笑いが木霊する。



「クック…、あれだと相当連れ回しそうだな」


「今日も5時から起きていたしなぁ…、真咲さんすまないね?」


「そんな、とんでもないです!こちらこそすみません…」


苦笑するお父さまのフォローに両手を振ると、口をついて出るのは謝罪の言葉で。



今日はお邪魔してから、“して貰うばかり”の立場で恐縮するばかりだもの…。



「いやいや…、これからは大和だけじゃなく、私たちにも頼って欲しいんだ。

遠慮ばかりだと気疲れするよ?家族になるんだからね――」


「あ、ありがとうございます…、どうぞお願いします」


お父さまは見てないフリをしつつ、今日の私を見ていたのだと納得させられる。



「うんうん…、謝るよりもお礼を伝える方が気分が良いモノだ」


「本当です…、以前に会社でも同じ事を言われました」


奔走する日々の中で掛けられた、“謝るだけでは先には繋がらない”という言葉。



ふと思い出して重ねれば、お父さまはこちらを見据えて真剣な面持ちに変わった。




「それは…朝倉 平蔵に言われたのかな?」


「え…はい、あの、会長をご存知ですか…?」


朝倉 平蔵…これは我が、朝倉エンジニアリングの創始者である現会長の事であり。



誰よりも工作機械の未来を考える、“モノ造り”職人としてもその名を知られる人だ。



思いもよらぬ場面で飛び出た為に目を丸くしていれば、ひとつ頷いて肯定される。




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