恋 理~renri~
すべてを聞いてもショックを受けなかった…、と言ったらウソになるだろう。
周りから大人びてると言われていたって、まだまだ思春期に入りたてだったもの。
だけど…すべてを知った時は、“許せない”気持ちの方が当時の私には強かった…。
「私の父に当たる人は…、きっと名前でしたら聞いた事があるかもしれません…。
父は…甲斐 蓮太郎(カイレンタロウ)と申します」
「甲斐 蓮太郎って…、人間国宝の?」
流石というか…、すかさず返して来た大和に頷いて苦笑を浮かべた。
「甲斐氏か…、とても高名な方だね」
「そうですね…、私は一度も会った事はないですが…」
お父さまから出た反応は、何となく分かっていたと思わせる口調だけど。
アノ人を語り始めてみれば、ひどく淡々と話す自分が冷たく思えてしまう。
人間国宝…、すなわち文科省の定めた“重要無形文化財”の保有者をさす呼称。
日本古来の伝統芸能や芸術において、特に秀でた人が認定される制度だけど。
事実を聞かされた私は、父親である人をただ恐ろしく感じたと同時に。
周りよりも物事を卒なくこなせた理由に気づき、ひどく嫌気がさしたのを覚えてる…。