恋 理~renri~
まるで頬を伝う涙とともに、その鉄壁がバリバリ打ち砕かれていくようで。
此処へ来ても本当に口にして良かったのか…と、怖さばかりが先行してしまう――
“真咲…約束してね、この事は絶対に口外してはダメよ”
“…どうして?
お母さんは、このままで良いの…?”
すべてを聞かされたあと、私の目をジッと捉えて牽制した母にうろたえたアノ日。
誰かに言うつもりなんて毛頭なかったけど…、腑に落ちない疑問をぶつけたの。
それでも平常心を装って淡々と尋ねた事は、我ながら当時の自分の心理が恐ろしい。
“お母さんはね…、甲斐さんに心から感謝してるのよ。
私たちが生活していけるのは、甲斐さんのお陰なの。
もし…私たちの存在がバレるような事になれば、皆の生活全部が壊れちゃうの…。
だからね、このまま真咲と2人でいられたら幸せよ――”
そうして話してくれた母は、私を通してその人を見ているような眼差しを向けて。
切なげな瞳が告げていたモノが、その人を“愛してる”事が明らかだったから。
“そっか。…ていうより、誰に言うと思ったの?”
“ふふっ、そうね…、真咲ちゃんありがとう”
“ううん…話してくれて、ありがと”
必死で茶化す私に際し、明らかにホッとした母の様子に動揺は見せられなかった。