恋 理~renri~
人でごった返す休日の銀座の街並みを眺めながら、隣接した駐車場へ車を停めれば。
一生来る事はなかったであろう、古めかしく異彩を放つ建物の前に立った私たち。
そう…此処は日本の伝統芸能を後世に伝える、格式高い歌舞伎座だ・・・
まるで時間が止まっているかのような姿に、ドクドクと鼓動が速さを増していく…。
「大和は…、来た事あるの?」
「付き合いで一回だけあるけど、正直あんまり覚えていないかな」
そんな弱さを打ち消そうと尋ねれば、苦笑して答えてくれた彼に和みつつも。
「私は初めてだから…、やっぱり緊張するね」
「大丈夫だよ」
やっぱり緊張からか上手く笑えない私を、一撫でしてくれる優しさが心強くて。
私も繋がれたままの手をキュッと握り返して、その建物の中へと足を進めた…。
「…え、靴を脱ぐの?」
「ああ、親父が選んだらしいよ。
この席の方が、ゆっくり落ち着いて観れるからって」
歌舞伎の公演は4~5時間と長いから、私たちは昼の部となる一公演を観るのみ。
お父さまが用意してくれたらしい、一階桟敷席の指定席まで大和について向かう。