恋 理~renri~
両側に設けられている一階桟敷席に腰をつけて、キョロキョロと辺りを見渡した。
着物を召している女性や観光客らしい外国人と…、観劇者は意外にも様々だけど。
「ねぇ大和…、本当に分かんないよ…?」
「いや、俺もだから大丈夫だよ。
その為に“コレ”借りて来たんだし」
「・・・うん」
隣席の大和に窺えば、劇場に入る前にロビーで借りたイヤホンガイドを掲げるけど。
歌舞伎は伝統芸能という事しか知らない私は、何だか場所に馴染めているか不安で。
ひとつ溜め息をついて舞台へ視線を向ければ、厳かかつ優美な佇まいをしていて。
何よりも舞台とかなり近い距離が、一層の不安を煽ってしまう要因だった・・・
「・・・っ」
「真咲…、震えてる」
そんな感情を察してくれる彼の手が、ギュッと私の手を繋ぎ止めてくれて。
「やっぱり…怖い、かな…」
「うん、そうだな…」
“心配しないで”と笑い返したつもりが、上手く笑顔にならなかったらしい。