ポケットの中の天球儀
最後って…?
真琴は耳に入ってきたその言葉の意味が理解できず、それを確かめようとゆっくりと隣にいる深沢に目をやった。
深沢がいない…
「博士?」
不安になり真琴は深沢の姿を探し後ろを振り返ろうとするが、それを遮るように背後から深沢の声がした。
「振り向いちゃ駄目、そのまま…」
有無を言わせない強い口調だった。
「博士…」
真琴は前を向いたまま、消えそうなくらい小さな声で深沢を呼んだ。
目に見えない大きな力を背中に感じ、言いようの無い不安が真琴を支配する。
何かが起ころうとしている…でもいったい…
混乱する思考の中に、再び深沢の声が聞こえる。
「でも、月が眠る今夜だけ、許しをもらったんだ。だから、悔いのないようにちゃんと気持ちを伝えたい」
背後から聞こえる深沢の声はとても落ち着いついていて、優しさに満ちていた。
その声に不思議と真琴の心も落ち着きを取り戻す。
深沢が何をしようとしているかわからないが、これから起こる全ての事を受け止めようと心が決まる。
深沢は大きく息を吸い込むと、閉じ込められた心を開放するように口を開く。
「俺、ずっとお前の事が…」
真琴の周りの音が一瞬にして消えると、全ての時間が止まる。
静寂の中で深沢の唇が微かに動き、一つの言葉を真琴に伝えた…
それは、深沢がずっと言えずにいた一言…真琴への偽りのない気持ちであった。
生まれて初めての告白を受けた真琴は、少し驚いたように後ろを振り返る。
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