ポケットの中の天球儀
「あ…」
そこには誰もいなかった。
「博士…?」
真琴はあたりを見回し深沢の姿を探す。
だが、どこにも深沢の姿を見つける事が出来なかった。
真琴の耳に再び波の音が戻ってくる…海は穏やかな波を砂浜に運び、星達は何事も無かったように瞬きあっている。まるで深沢と言う人物など最初から存在しなかったように…
「そんな…」
不安に駆られ、必死に深沢の姿を求める真琴の目に小さな光が見えた。
真琴は暗闇に咲く一輪の花を見つけたように、その光に近づいた。
その微かな光は深沢のタイメックスだった。
砂浜にぽつんと取り残されたタイメックス…真琴はそれを拾うと、淡く光る文字盤を覗き込んだ。
文字盤の中の針は、二人で声を合わせ心を一つにした亥の時…21時を指したまま止まっていた。
「深沢君…」
真琴は時計を手に夜空を見上げると、その中に深沢の姿を探した。
無数に散らばる星達の中の一つが、それに応えるように大きく瞬いた。



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