ポケットの中の天球儀
真琴はポケットから深沢のタイメックスを取り出す。
太陽の光に晒されたタイメックスの文字盤は、21時を指したまま止まっている。
もう二度とこの世界で時を刻む事はないだろう…時計の持ち主はもうこの世界にいないのだから。
―でも…
真琴は、この時計の持ち主が今どこにいるかを知っていた。
それは誰も知らない、もう一つの世界…
真琴は腕時計を手に真っ青な空を見上げると、先程の声の主に問い掛けた。
「これ、もらってもいいんだよね?」
真琴の声が届いたのか、それに答えるように小さな奇跡が起きた。
「え、嘘…」
真琴は驚きの声を上げる。
文字盤の秒針が、まるで魔法にかかったように動き出したのだ。
息を吹き返した時計は、新しい時間を刻み始める。
「これって…」
真琴は、再び時計に生命を与えた深沢の意図を考える。
自分に新たな時間をスタートさせろと言ってるのかしら?
いや、そうではない…それも間違いじゃないけど、きっとあいつは…
真琴は深沢の意地らしい仕掛に気づくと、思わず笑みを零した。
少しおどおどした深沢の顔を想像しながら真琴は、大丈夫…というように空を見上げた。
「ずっと、ずっと忘れないよ。あの夜に起こった事…あの星達の事…」
昨夜の出来事の一つ一つを思い浮かべながら、真琴は、一方的に告白をしてもう一つの世界に行ってしまった身勝手な初恋の相手に約束する。
「深沢君の事も…絶対に…」
知らずのうちに涙が零れそうになっていた…
それに気づいた真琴は寂しげに瞳を落とすが、すぐに涙を振り払うと、最高の笑顔で深沢を見上げ言った。
「じやあね」

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