ポケットの中の天球儀
半ば予想していたとはいえ、恋人同士の死別と言う最悪の結末にはやはり心が痛む。
まだ恋愛経験が無く、淡い恋を夢見る少女にとってはなおさらの事だった。
悲しげに瞳を落とす真琴に、小夜は何故だかほっとしていた。
自分の孫にまだ豊かな感情と想像力が残っている事を確認し、安心したのだ。
「だが…」
これで終わりではないと言うように小夜が続けると、真琴は再び物語の中に引き込まれる。
「それを哀れに思った神様が年に一度、月の門番が眠る夜にだけ男に地上に行く事を、姫様に会いに行く事を許した」
「それが…文月の月眠る時?」
確かめるような真琴の瞳に、小夜は静かに頷いて見せた。
どんな形にしろ二人に救いがあった事に、真琴自身も救われた気分になった。
「男は光の船でやって来る、8月の新月の夜にな…」
「8月の新月の夜って…」
「今夜の事だよ。退屈してるなら行ってみるといい。鳥居がある浜辺、覚えてるだろ?」
「うん、だいたい…」
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