ポケットの中の天球儀
第二章
黄昏の光が、海を黄金色に染めていた。
真琴は神社を左手に見ながら、緩やかな勾配を下る。
向かっている先は、祖母が言っていた鳥居がある浜辺…歩いて行くと一時間弱と言ったところだろうか。
「離された心一つにならん…か」
眼下に広がる海の輝きを眺めながら、真琴は祖母が口にした言葉をなぞった。
昼間に祖母から聞いた言い伝えの話…
戦で死別した恋人同士…悲劇の結末を迎えた二人が年に一度だけ会う事が許され、しかもそれが偶然にも今夜だと言うのは、いささか出来すぎた話ではないだろうか。
「それに…」
もし、言い伝えが本当だったとしても、一体何が起こるのだろう…光の船とは?
湧き上る疑問に答えを見つけようとするものの、謎は深まるばかりだった。
「まあ、でも…」
祖母の言う鳥居に行ってみれば、全ては明らかになるだろう。
それに、家の中にずっといて教科書とにらめっこしてるよりは、よっぽど気分転換になる。
真琴がそう結論を出したその時…突然、背後で叫び声が起こった。
「危ない!」
「え…?」
咄嗟に振り向いた真琴の視界いっぱいに、突進してくる自転車が飛び込んできた。
驚きに目を大きく見開く真琴…瞬時に危険は察したものの、体が硬直して言う事を聞かない。
真琴は覚悟を決めると、後の事は神様に委ね目を閉じた。
神様はそんな真琴に慈悲を与えたのか、間一髪…
自転車は真琴の体数ミリ先をかすめていくと、そのままのスピードを保ち電柱に進路を取った。
断末魔を思わせるブレーキの悲鳴の直後に、何とも言えない鈍い衝突音、哀れな叫び声が響き渡り…静寂が訪れた。

< 4 / 20 >

この作品をシェア

pagetop