ポケットの中の天球儀
どうやら祈りは通じたらしい…
危機が去った事を肌で感じながら、真琴はゆっくりと目を開けた。
真琴の数メートル先の電柱には地面に横たわる自転車が見える。衝突の勢いなのか、今だにホイールのスポークが回り続けていた。
その脇には真琴と同じくらいであろう年の少年が、地面にうずくまっていた。痛みを堪えているのだろうか…少年は低いうめきを上げながら、腰のあたり手でさすっている。
その近くの地面には少年がかけていたであろう黒ぶち眼鏡が転がっていた。
かなりの惨事ではあったが少年に深刻な怪我は無いようで、既に自力で立ち上がろうとしていた。
真琴は安堵に息をつくと、恐る恐る少年に近づく。
「あ、あの…大丈夫ですが?」
あまり大丈夫そうではなかったが、他にかけるべき言葉が見当たらなかった。
少年は呪いの言葉ともつかない声を上げていたが、真琴の声が耳に入ると慌てて体を起こした。
「き、気にしないで、僕自転車がどうも人より下手くそで。それより怪我は…」
少年はそう言うと、急いで地面に落ちている黒ぶち眼鏡を拾う。
視界がぼんやりしているのか、何度か首を振り眼鏡をかけると、真琴の顔に焦点を合わせた。
「あ…!」
真琴と少年の目が合った時、二人はほぼ同時に声を上げた。
間違いなく知っている顔であった。
真琴は記憶の中を大急ぎで検索すると、一人の人物を特定する。
「博…士?」
ゆっくりと確かめるように、かつてのクラスメイトに問い掛けていた。
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