ポケットの中の天球儀
派手な演出で真琴の前に現れたのは、彼女が一年の時に同じクラスにいた深沢と言う少年であった。
真琴は自分を轢きそうになった自転車を起こすと、心配げに深沢に声をかけた。
「怪我、してない?」
「大丈夫、慣れっこだから」
ジーパンのすそを払いながら、深沢はまるで人事のようにそう答えると笑顔で無事をアピールした。
「そう…良かった」
真琴は大きな怪我が無かった事に胸をなでおろすと、抗議の目線を深沢に向けた。
「でも、驚いたわよ、いきなり自転車で突っ込んでくるんだもん」
「危なかった。もうちょっとで7人目の犠牲者になるところだった」
真琴は深沢の言う『慣れっこ』の意味をようやく理解する。
どうやら本人の言うとおり、壊滅的に運転が下手なようで…それを裏付けるかのように彼の自転車は傷だらけだった。
これまでの犠牲者を気の毒に思いながらも、自分がその一人にならなかった事に安堵した。
「とんだ再会劇ね…」
真琴は少し呆れたようにそう呟くと、ため息をついた。
思いがけない再会ではあったが実際の所、彼の事をあまり覚えていなかった。
同じクラスと言うだけで、それ程仲が良かったわけでもなく、あまり話した記憶もない。
黒ぶち眼鏡の風貌、科学部に在籍していた事から、みんなから「博士」と呼ばれていて、そっちの名前の方が皆に覚えられていた。
真琴が彼の事を最初にそう呼んだのも、咄嗟に名前が出てこなかったからである。
そのニックネームに負けず実際にも成績が良かったようで、確か学年で一番か二番だったと聞いた事がある。今の真琴にとっては羨ましい限りであったが…
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