ポケットの中の天球儀
共通の思い出を中々見つけられず、話のきっかけが掴めない真琴にお構いなくと言ったふうに、深沢は好奇心の視線で話し掛けてくる
「でも楠、どうしてここにいるんだ?お前確か、一年の時に東京に引っ越したんじゃなかったっけ?」
「おばあちゃんの所に遊びに来てるの。明日までだけどね」
「へえ、そうなんだ…」
深沢はさらに好奇心に満ちた目でにじり寄って来ると、じっと真琴の顔を見上げる。
真琴はその視線に戸惑い緊張するが、深沢はすぐに表情を崩すと羨望の眼差しで問い掛けた。
「楠、背伸びた?」
「て、転校してから2年も経つんだもん、そういう博士…深沢君だって…」
真琴はそう言って先を続けようとしたが、思わず言葉を飲み込んだ。
「…悪かったな、小さいままで」
真琴の心を代弁するように、深沢がふてくされ気味に言った。
「ゴメン…」
真琴は少し気まずそうに両手を合わせる。
真琴が見下ろしている少年は成長の度合いが緩やかなようで、同年代の男子の身長からは、かなり低いように見えた。
それは本人にも十分自覚があるようで、傷つけてしまったのでは…?と危惧するが、そんな真琴をよそに、本人は気にするふうも無く再び口を開いていた。
「それより…お前、どこに行こうとしてたんだ?学校か?」
真琴は首を振る。
「おばあちゃんから言い伝えの事を聞いてね、それでやる事ないし退屈だから暇つぶしに見に行こうかなって…」
「文月の月眠る亥の時、離された心一つにならん…」
真琴の言葉を遮るように、深沢がそのフレーズを口にしていた。
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