銀の月夜に願う想い
その変化は突然、現われた。
自分のベッドで夢の中にいたら、いきなりバンバン扉を叩かれた。
尋常じゃない音にビックリして部屋の戸を開けたら、むわんと鼻腔をくすぐった酒の匂い。
何事だ?と思って見上げれば、そこには金髪に隠れた顔がある。
「クー…?」
どうしたの?
そんな言葉を漏らす前にルゼルが部屋の中に入ってくる。
そして出ようとしていたレリアを自分の体を使って部屋に入れると、静かに扉を閉めた。
何故かその必要以上に静かな様子に焦躁する。
「クー……?」
何かあったの、なんて当たり障りのない言葉を口にしようとした瞬間、その言葉は押しつけられた唇の向こうに消えた。
口の中一杯に動き回る舌の、なまめかしい動きに腰が抜けそうになる。
口を離された瞬間、彼が口を開いた。
「イヤな匂い……」
「…は?」
「キツい……薔薇の匂いがする」
先ほどまでこの部屋にあった真っ赤な真っ赤な薔薇。その残り香のことを言っているのだろう。
「レーアの匂いがしない…」
「……なんでそんなことを…」
変だ、と思った。
彼がこんな弱々しい声を出すなんて、何かあったに違いない。
「クー、…――ひゃっ!」
言いかけようとして抱き上げられた。
いきなりアップになったルゼルの瞳には、陰りがある。
「レーア……君、何考えてる?」
ベッドに押し倒され、見下ろしてきた光に縁取られた青い瞳。
あるのは、"疑い"で。
心臓が冷えた。
「何って…」
まだ、確信している訳ではないというのに。勘のいい恋人に冷や汗が出る。
黙って視線を彷徨わせていると、
「……言えないなら良いよ」
身体に聞くから、と言われて身体が強張った。