銀の月夜に願う想い

ふふ、と笑みを漏らしたレリアは扉を見る。

でもそれが開くことはなくて、

「まだ大丈夫そうね」

あんまり甘やかしすぎたから一週間持つかどうかも心配だったけれど。
そこまで弱くはないらしい。


「今はまだ大丈夫そうですが、これで権限を使われたら女中たちはどうすることも出来ませんよ」

「クーはそういうのは使わないわ。だって、今の立場が一番嫌いだもの」



一回捨てられたのに今同じ立場にいるのは、ロアルが後ろにいるから。
それを知っていて父親を毛嫌いしているルゼルが、その父親に与えられたものを使うはずがない。


「だからクーは王子としての自分を表に出そうとしないの」

父親にいいように使われるのがイヤだったから、だから今まで社交界にも顔を出さなかった。


「それにクーの世界は私で構成されているから、あの人は私に嫌われるようなことだけはしないわ」

「随分信じていらっしゃるのですね」

フッと苦笑を漏らす彼にレリアは自嘲を浮かべる。


大好きなあなた。
愛しいあなた。


抱き締めて、と言われたらすぐに駆け付けて抱き締めたい。

キスして、と言われたら抵抗も出来ずにキスする。



離れていることが苦しくて、悲しい。


「泣いて……いい?」

「どうぞ」

その答えが聞こえる前から、白い頬には透明な雫が滑っていた。

でもユヒスは何も言わない。



窓枠に突っ伏したレリアの肩が微かに揺れている。

「お母様…っ……には、秘密よっ…」

「分かっております」


返ってくる答えはあまりに静かで。

赤い瞳がレリアの、腹部を擦る手をじっと見ている。

「どうかなさいましたか?」

「ちょっと…痛いだけ」


< 116 / 161 >

この作品をシェア

pagetop