銀の月夜に願う想い
「姫様があの方を大事にしていらっしゃるのは重々承知しています。でも、私はもう、そんな姫様を見てなどいられません」
「同感です」
切々と語るミースに同意を示したユヒスのほうを見ると、彼もいい顔をしていない。
どうやらルゼルは皆から嫌われているらしい。
「あなたもそう思うでしょう?」
ミースが同意を求めて見た先にはこの部屋の扉。
そこが音もなしに開いた。
「ええ…、今腹が煮えくり返っているところです」
低く押し殺した声に上半身を起こすと、そこには暗い笑みを浮かべたトファダがいた。
トファダは部屋に入ってくると真っ先にレリアの元へきた。
「レーア様」
腰を優雅に折って礼をするところは綺麗で紳士的なのに、その顔にはやっぱり暗い笑み。
でもレリアを見たと同時にそれもなくなった。
「具合はどうですか?」
「……それほど。でもお仕事は大丈夫なの?」
「ええ」
敬語は、健在。
でも彼がこの部屋に入ったと同時に他の二人の態度が変わった。
揺れる赤い髪、炎を灯す目。髪を結っていた紐を解いたミースはムシャクシャしたように頭を掻く。
その動作はいつもの可憐さを含んでいない。
「あーあ、あの王子がロアル様のお気に入りじゃなかったら八つ裂きにしてやるのにー」
ベッドの傍にある椅子に座って脚を組むミースは爪を弄る。その爪は光を弾いて光っていて、
「レーア様の前だぞ。不謹慎なことを言うな」
首元の服を緩めているユヒスはそれを見て眉をひそめている。
「やっだぁ。あたしそこまでバカじゃないし?ちゃんと考えて行動するわよ」
腰まで届く髪を払ったミースは、猫目を細めた。