銀の月夜に願う想い

内面が美しすぎてレリアに羨ましいと言わせた女。

「………」

「どうしたのですか?」

じっと見ていると訝しそうに見てきた。そんなセヘネはいつもと違うルゼルに気づいているのだろう。

あんなに好意を寄せてくる彼女が変化に気づかない訳がない。

「殿下?」

『クー』

違う。君じゃない。僕の欲しい人は君じゃない。

「具合でも悪いのですか?」

『具合悪いならこっちいらっしゃい。我慢しちゃダメって言ったでしょ?』

誰よりも先に僕のことを気づく君。普段から彼女に言われてから体調不良に気付いた。

でも大切な君は、いない。


――裏切られたから。

『私にはあなただけよ』なんて言っておきながら、僕から離れた君。


僕の世界は君で成り立っていたから、裏切られて憎い気持ちはある。

でもそれ以上に脱力感が凄い。何もやる気にならないなんて。

僕も相当イカれてたわけだ。


「殿下?やっぱり具合が――」

「ねぇ」

不意に何故か、この娘の真っ白さを汚したくなった。

僕は彼女に微笑んだ。

誰もが騙される『優しい王子殿下』の仮面をつけて。


「僕のこと、好き?」

「……!」

頬をパッと染めた彼女の分かりやすい態度。それがひどく鬱陶しい。

やっと頷いたセヘネに僕は口の端を上げた。

「今からちょっと話さない?」

「でもお仕事は?」

「大丈夫」



何も知らないウサギを野に放したのは誰だろう。
わざわざ獲物に狙わせるように。





―――それから、僕のひどい女遊びが始まった。


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