銀の月夜に願う想い
とぼけるルゼルにアルスは溜め息をついた。
これ以上聞いても答えないと、彼は分かっていたから。
伊達に腐れ縁でいないみたいだ。




「殿下」


声をかけられて振り向いたその先には、満面の笑みを浮かべたセヘネがいる。

彼女は自然な動作でルゼルの腕に腕を絡め、アルスに微笑んだ。


「こんばんわ、トゥイーヤ家のご子息様。お元気そうで何よりですわ」

「ご機嫌麗しゅう、セヘネ嬢。僕は年中元気ですよ。きっと光神ロアルのおかげなのでしょうね」

「まあお口がお上手ですこと」


クスクス笑うセヘネは、後ろから母親に呼ばれて二人に挨拶をすると、優雅に歩いていった。


その後ろ姿に笑顔を向けていたアルスは、セヘネの姿が見えなくなると盛大な溜め息をついた。


「処女はあれだから嫌なんだ。一回ヤるとすぐにその気になるからな」

「お前の苦労が分かる気がする」



セヘネは確かに初めてヤってから付きまとってくる。それがウザくてウザくて困る。



……レリアはこんなことなかったから、余計にそう思うのだろうけど。



ここに彼女を連れてきて二年、レリアには悉く想いを交わされてきたから、初めて愛し合った夜は幸せだった。
それからもレリアだったら何をされても許せたし、逆に愛しくさえ思った。


顔を見れば幸せだったし、その存在が隣にあれば心は満たされた。


彼女を抱いている間はレリアのする反応も出す声も、全部が愛しかった。
でも他の女とヤってみて、その反応も声も、全てが目障りで耳障りでしかなかった。



レリアがいなくても生きていけると思った。でも、離れていかに彼女が自分にとって必要か分かった。

たとえ彼女が他の男の子供を身籠っていても、レリアの子なら許せると思った。


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