銀の月夜に願う想い
"人間として生きていたら"?



その言葉に含まれる意味合いにルゼルは眉をひそめた。


「……今は人間じゃないとでも?」

『少なくとも今は、ね。レーアは半分人間の匂いが混じってるけど、それは母親が人間のときに産んだからだよ』

「じゃあ神になったとでも?」

『……人間を易々と神にするほど僕もバカじゃない』



神は神の、人間は人間の掟と摂理がある。それをねじ曲げるのは、例えどんな神でも許されない。



「でもレーアはメレイシアに……」


メレイシアの名前を出した瞬間、周りがびくっとした。それにロアルは悲しげな視線を送る。


『……レーアは自然の摂理から脱け出した…云わば異端者だ。だからレーアは掟に縛られない』

「僕は?」

『お前は人間との繋がりを解かれてしまっただろう』



神の供物に、と捧げられた時点で親の愛はない。それに同意した時点で、民の愛もない。

捨てられた存在は、掟からは解放されていた。



「僕は……」


レーアがいるなら、神の能力など要らなかったよ。



そう言いたいのに言葉が続かない。
それでもロアルは分かっているのだろう。


金色の双眸が翳りを帯びた。


『時を戻すことは……出来ない』

「………っ」



何故?
何故レーアだった?
何故メレイシアに愛されたのが彼女だったのだろう?

せめて人間だったなら、彼女と一緒になれたかもしれないのに。



……それとも僕が神になどなる承諾をしなければ良かったのだろうか。
そうすれば彼女の隣にいれた?


分からない。
どれが一番良い選択だったのか分からない。



どうすれば僕たちは一緒にいられたのだろう。



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