銀の月夜に願う想い
昼を過ぎた頃レリアの部屋を訪れたルゼルは、ドレスをちゃんと着こなしているレリアを見てから本性をあらわした。
「良い、レーア。とにかく分かんないことあったらトファダに任せれば良いから。それと礼儀作法のほうは適当にやってれば大丈夫。絶対に自分からお茶注いだらダメ」
「はいはい」
いつものことで慣れているレリアとは違い、それなりにしっかりしているときのルゼルしか見たことのないトファダはあまりの過保護さに呆れている。
「いつもこんな感じですか」
トファダに耳打ちされてレリアは苦笑する。
「ええ。私と一緒のときは大体」
「大変ですねぇ」
この心配性。さっきからオロオロとしていて、普段の沈着冷静なところは全く見受けられない。
これが普段の彼を知っている者だったら、きっと目を疑うだろう。
「レーア……」
「なぁに、クー」
普段の大人っぽいルゼルと一緒ならばまだお似合いかもしれないが、ここまで子供っぽい彼とレリアでは少し違和感を覚えてしまう。元々レリアは大人っぽいのだから。
盛大な溜め息をついたルゼルは心配そうな目を向けてくる。
「レーア」
「なぁに」
普通トファダならここで、「早く言え、このバカ王子!」と怒っているだろうが、レリアは寛大だ。
「本当に姫君は彼より年下ですか?」
「ええ」
おっとりとした様は、年上に見えても仕方がない。
けれどこれは彼が子供っぽいから、世話焼きのレリアは知らないうちに身につけただけ。
「大変ですねぇ」
二度目のその言葉に、レリアはふふふっと笑った。
「じゃないとクーの相手なんて、出来ないわ」
それは経験者の話であり、長年仕えてきたトファダすら納得させるものだった。