銀の月夜に願う想い
ついてきて、と言われてレリアがついて行った先は、大きな扉の前。
やっぱり大きな王宮内だが、歩いたことのなかったレリアには珍しかった。
と、まだ珍しいものを見る目で周りを見ていたレリアの肩に振り返ったルゼルの手が置かれる。
「レーア」
「ん?なぁに」
首を傾げるレリアに、ルゼルは真剣な目を向けてくる。
「何かあったらすぐにトファダに言うこと。それと、トファダに変なところ触られたら悲鳴あげて容赦なくひっぱたいて良いから」
「……どこまで信用してないんですか」
半眼を向けるトファダの視線から守るようにルゼルはレリアを抱き締める。
「大丈夫です、ただ抱き締めるための話題作りですから」
さらっと口にしてレリアはルゼルの腕から逃れる。
「もっと警戒して。何処で人が見ているか分からないのよ」
上目で睨むレリアに、ルゼルは拗ねた顔をする。
その頬に軽く口付けたレリアは、微笑んだ。
「仕事頑張って。そうしたら夜思いっきり甘えさせてあげるから」
「……分かった」
まだ心配そうな顔をしていたが、レリアは手を離すとトファダを見る。
部屋の中から姿を現した使用人とトファダが話している最中、チラッと見る。
いつものように愛しげに見てくる彼に、レリアは微笑んで口を動かした。
『愛してるわ』
口だけ動かしたから、伝わるか心配だったのだが、ルゼルには分かったようだ。
口を動かして返してくる。
『僕も愛してるよ』
いつも見る笑み。レリアはそれを横目で見ながら、トファダに促されて部屋に入った。
部屋に入ると、そこは自分が住んでいる塔にある部屋より豪華だった。
さすが、王子の婚約者の部屋と言ったところだろう。
部屋のソファで待っていたセヘネは、レリアを見るとパッと顔を明るくした。
「こんにちは」
「こんにちは!さあ、座って下さい」
嬉しげな彼女に促されるままにセヘネの前のソファに座った。