銀の月夜に願う想い
「急にごめんなさい。私あなたに会いたいなんて殿下にも無理言って……」
「大丈夫です。私北の塔から出たことがないので、こういうことは初めてなんです。ふつつかですけれど、許して下さいね」
「はっ、はい!」
目にキラキラを溜めているセヘネを見て、レリアは薄く微笑む。
そんなレリアの後ろに控えているトファダは、そっと耳打ちした。
「名前のほうはどうしますか」
「大丈夫です。何かあったら助けを出しますから、心配しないで下さい」
にっこり微笑むと、トファダはただはいと言って下がった。
ルゼルが信用するに値するという彼。レリアはもし彼が信用出来なかったら関わるつもりもなかったのだが、この陰謀黒く渦巻く王宮内では信用に足る人物だ。
それにレリアがメレイシアの娘と知って王子の傍においてくれ、しかも仲を認めてくれる人。
だから信用している。
「えっと……お名前はなんと?」
聞いてこられてレリアは瞳を向けた。
「アユラです」
ピクッとセヘネの顔が動いたのを、レリアは見逃さなかった。
「アユラ………さん?」
「アユラ……」
トファダさえ驚いた顔をしている。
『アユラ』は、彼女の国アシュトヒス国で『闇』の意味を持つ。つまり、メレイシアのことを指すのだ。
「姫……」
何か言おうとするトファダの声をレリアは無視する。
「何か?」
「いっ、いいえ。何でもないです」
セヘネは気を取り直すように立ち上がるとお菓子の用意をするように言った。
その隙にトファダがまた耳打ちしてきた。
「どういうつもりですか!あんな名前を名乗ったりして」
「私の勝手です」
事実そうだから、何を言われる筋合いもない。
そういうと彼は呆れたような顔で小さくため息をついた。
私はメレイシアの娘。だから人には厄と言われる名前を名乗ることにためらいはない。
メレイシアの娘がこんなことに恐れを成していて、メレイシアを母とは言えないだろう。