銀の月夜に願う想い
「王子に絶対何か言われますよ」
「きっと呆れるのでしょうね」
その光景が目に浮かぶ。
彼は優しいから、レリアが名乗った名前を聞いて呆れ、そして笑うだろう。『レーアらしいね』と。
「報告は、しっかりさせていただきます」
「ご勝手に」
小声で返し、レリアはセヘネを見た。
「今日は何故私のような者をお呼びに?」
「私、一目見てアユラさんのことが好きになりましたの。とても神秘的な方でしたから」
「神秘的、ですか…」
真摯な眼差しで見てくるセヘネに、呟いてみる。
なんと皮肉なことだろう。彼女が一番好いている王子の心を独り占めしているレリアを、彼女が好くなんて。
「だって綺麗な蜂蜜の髪と瞳ですもの。まるで光神ロアルのよう」
無邪気に笑う少女は知らないことだろう。目の前にいる少女が、そのロアルとは対極に位置する闇の女神メレイシアの娘などと。
「そういえば、セヘネ様はご存じですよね。クーがロアル様の加護を持っていると」
「クー?」
きょとんとする彼女の顔を見て、レリアは「あぁ…」と声を漏らす。
「ルゼル殿下の別名です。ロアル様からいただいた別の名前」
「そのようなものがあるのですね。殿下が光神ロアルの加護を受けていることは知っています」
それが?という目を向けてくるセヘネは何も知らされていないのだ。そこまでルゼルは彼女が『こちら』に入ってこないようにと徹底している。
「彼が王位継承権を持たないことは?」
「………知っています」
「では、何故殿下の婚約者をしているのですか?なんの得もないのに」
ルゼルは小さい頃光神ロアルの供物として捧げられた。その時点で死んだものとされているため、王位継承権は持たない。
でもロアルが彼をこの王宮に連れ戻してしまったから、彼は今微妙な立場に立っている。