銀の月夜に願う想い
「女に興味がないと、セヘネ嬢にも手を出さなかったお前が四年も愛する女性なんて……何処にいるんだい?」
「ここにはいない」
きょろきょろ、と辺りを見回す友に、素っ気なく返す。
今頃レリアは自分の部屋。トファダによるとセヘネは昼の姿のレリアに来て欲しいと言ったらしい。しかし、夜は絶対に髪も瞳も色が変わる。立場上婚約者も決まっていて庇えないルゼルが、メレイシアと同じ色合いをした夜の姿のレリアを守れるわけがない。
「何処の女だ?」
今までこれといって女と噂のたたなかった、女に興味のないルゼルが好きだという女に興味が湧いたのか。
興味津々、といった体で聞いてくるアルスを、ちらりと見る。
「さあ…」
「じゃあどんな娘?」
「さあ……」
教える気など、更々ない。
さあ…、じゃ分かんねぇよ、と愚痴を漏らすアルスは、それでもレリアのいるはずがないホール内をきょろきょろと見ている。
どうして教える必要がある?レリアは自分だけのもの。彼女を知る者も僕を知る者も、互いだけで十分だというのに。人々は自分の欲望のために知ろうとするのだ。この世のすべてを。
(レーア連れてこなくって良かったかな…)
こんな奴の傍においておいたら嫌らしい目で見てくるに決まっている。愛しいレリアをそんな状況に巻き込むわけにはいかない。
窓の外を見れば、綺麗な月が夜の世界を魅せる。
君の世界…。
レーアの…、レーアとメレイシアの世界。自分が踏み入れることの出来ない悠久の暗闇。
光であり続ける限り、絶対に触れることの叶わない世界の母が齎す闇だ。
もしメレイシアより先にレリアに会っていたら。そうすれば彼女と僕は引き裂かれる運命(さだめ)の翻弄に身を投じることなどなかったのだろう。
でもそれはもう結果として過ぎてしまったことなのだ。レリアと自分が結ばれる未来などない。
すべては神が。同胞とも言えるロアルたちが、決めたこと。
一回見たとき人ならぬ雰囲気に目を惹かれ。美しい蜂蜜の髪と瞳を持ちながら、その外見に合わぬ世界の女神を母だと語る。
今だって彼女が一番大事にするのは母親。
彼女が選ぶのは大事な母親であって。
僕ではない…。