銀の月夜に願う想い

ルゼルはもう既に人ではない。
二十歳になったとき、身体は人でないものに変えられ、長い年月を生きるために必要な能力を手に入れた。
だからこの体は傷がついてもすぐ治るし、病気を患うことさえない。人の生きる世界で百年も経たず朽ちる身体は…、朽ちることなどなく永遠にこのままだ。

親に捨てられた代償に与えられた、誰もが望む一番の願いを、ロアルは渡してきた。

必要などないというのに…。

レリアといられない世界で、一生独りで過ごすことなど苦痛以外の何者でもない。
結局はロアルの背中を追って育っている。彼と同じ、許されない恋に身を狂わせようとしている。

あってはいけない恋なのに……それを犯そうとしている自分も、また罪深いのだろう。



その日から決して叶わぬ夢が出来た。
ロアルの能力を持つルゼルと、メレイシアの能力を持つレリア。二人の力は反発し合い、決して交わることなどないから。

絶対に子供など、授からないのだ…。


今までだって難しかったのに、ルゼルが完璧な光の住人になることでそれは不可能になった。だからルゼルが人の世界で子供を欲するには、レリア以外の女性と繋がらなければいけない。

そんなの、嫌だ。

触れられるだけで吐き気がする。顔を近づけるのだって嫌なのに。体を重ねるなど、以ての外だ。

ただ大事な人にいて欲しいと望んでいるだけなのに。どうしてそんな小さな願いが、叶わないのだろう。

「狭いね…世界は」

「はぁ?何言ってんだ、お前」

頭大丈夫か、と聞いてくる友人に苦笑して。ルゼルはそっと視線を流す。

ありえない恋。それは甘美で美しく咲く花が蜜を垂らし蝶を誘うように。どんなに魅せられても壁のある恋は、無理だと分かるほど甘く香る。
僕の心をかき乱すのは君だけで…、大事なのは一つの存在だけ。
狂おしいこの恋をやめろと言われるほうが無理で。そうして本気の恋を知った自分は、きっと幸せなのだろう。

でも。



この世界が僕たちの恋の犠牲で成り立つというのなら。









いっそこの世界ごと。









壊して、壊して。











すべての恋が、実らないようにしてしまいたい…。


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