銀の月夜に願う想い
愛することは簡単じゃない。
想いが通じ合わなかった頃、どれだけ言われたことだろう。
『僕を愛して?』
と。
愛せと言われて愛せるのは娼婦だけよ、と苦笑しながら返して、二年間彼の想いに答えることはしなかった。
「懐かしいわ……簡単に自分のものに出来る私を、あの人は私が告白するまで抱かなかったんですもの」
愛して欲しいと言うのに。
彼が『身体』だけを求めなかったのは、ちゃんとレリアを見て、愛してくれていたから。
その純粋さに心を奪われた、なんて。
凄いベタ。
「私には分かんないな……どうして叶わない恋をするの?」
目の前の綺麗な神は不思議そうに見てくる。
そんな彼女に苦笑しか出来ない。
「愛してるから…」
他に、理由なんてない。
ただそれだけの、傍から見たら簡単な理由。
「…もし、ロアル様のところのお坊ちゃんが、あなたとは違う気持ちだったら?」
意地悪なものを含んだその言葉に、レリアは苦笑する。
「そんなこと、きっとどんなに長い年月が経ってもありえないよ」
聞こえてきた声にレリアは振り向く。そこにはふわりと微笑むルゼルがいた。
「ていうかツェーナ?そういう勘ぐりはやめて欲しいな。俺の大切なレーアを惑わさないで」
「大切?そんな危ないものをのさばらせておいて?」
ツェーナの視線の先には、床に転がっているもの――忍んでここまで来たルゼルの父親がいた。
「………」
「レリアちゃんがメレイシアの娘じゃなかったら、今頃寝取られていたんじゃない?」
この国の"水"を守護する女神はとても冷たい瞳をしている。
闇に鎮座し全てを見据える世界の原点であり終わりである生と死を司る人。
その人の娘であるレリアは、他の何にも代えられない大切なものなのだ。