銀の月夜に願う想い
北の塔から他の塔に行ってはいけないという約束があるが、北の塔の周りに出てはいけない訳ではない。
塔の周りにはルゼルがレリアのために造らせた庭園があり、春の今は蕾を膨らませようとしている。
それはとても健気で、触ってはいけないように思う。
事実触ってはいけないのだろう。だって私は闇の住人なのだから。その美しさを汚すことは許されない。
「こういうときは便利ね…」
こうやって昼は光の住人でいられることは。光に触れても良いから。
闇の眷属である時間は、きっと生き物に触ったら枯れてしまう。私が生気を吸ってしまうから。
そんなものを見るのは、イヤ。
「ねぇ、ミース」
「はい、お嬢様」
部屋の中でレリアのベッドを整えていた彼女は振り向いた。
彼女には毎日酷なことをしていると思う。だってレリアたちが愛し合ったあとの残るそれを片付けさせているのだから。
それを見ても彼女が何も言わないでいてくれるのは、きっと……。
「トファダはいつ来るかしらね」
「さあ?トファダ様は忙しい方ですから」
「会えなくて寂しいのではなくて?」
「……!」
目の前にあった顔がポッと色付く。分かりやすいそれにレリアは微笑んだ。
そう、彼女はルゼルにつく護衛官に想いを寄せているのだ。
だから協力してくれる。トファダが守ろうとしている人たちだから、彼女もそうしようとしている。
恋の成せるわざと言えよう。
「あなたは私たちのような、数奇な運命に付き合う必要はなかったのに……」
「私がやりたくてやっていることですから。お嬢様はお気になさらずに」
ふわりと微笑むこんな健気な彼女を巻き込んでしまったことに罪悪感を覚える。
この娘は純粋すぎるのだ。私たちに付き合わせて良い人ではない。
どうして神は…、ロアルは私たちをこんな運命の下(もと)に創ったのだろう。
こんなにつらい世界なら……生まれてきたくはなかった。