銀の月夜に願う想い

《そんなことを言わないでおくれ……レーア》

聞こえてきた声にレリアはハッとした。

今の優しいけれど風のようにサラリとした声には聞き覚えがある。忘れる訳がないのだ。

「……悪いけれど、少し出掛けてくるわ」

「えっ……お嬢様?」

後ろから呼んでくるミースを無視し、レリアは部屋を出た。


目に優しい碧に芽吹き始めた若葉。噴水は澄んだ青を示し、膨らみ始めた蕾が庭に色を灯そうとしている。
それは短い命を生きるものの鮮やかさで、死を知らなくなるレリアには羨ましい。


その鮮やかな生の色の中に一つあるのは、はっきりと印象に残る金。
全ての息吹を司る、神。

『レーア……久しぶりだね。前会ったときは、君は十七歳…だったかな?』

うろ覚えなのか、ロアルは首を傾げている。

当たり前だろう。なにせ彼は永遠を生きるモノ。人には長い二年の月日は、彼にとって瞬き一つの間のことのように短いのだ。


「今はもう十九歳です。あと一年しかない……」

『五年はやっぱり短かったのかな。俺はクーを幸せにしてあげたかったけど…』

「五年は長すぎました。だって、今こうして別れを待つ時間がこんなにも狂おしい……」

一緒にいる時間が長過ぎた。
離れがたくなるほどの時を一緒にいて、余計想いは募るばかり。
別れなければいけないと言う思いこそが、二人の離別をただ苦しく拒否する。


愛することはいけないと、母親の姿を見て育って分かっていたはずなのに。
でも好きになってしまったから仕方がない。

『……今、俺はメレイシアに嫌われていてさ。会いに行くのさえ許してはもらえないんだ』

「お母様が…?」

思い当たる理由はただ一つ。彼がレリアをここへやったことだ。
彼女は最後までレリアが外界に出ることをに良い顔をしなかったから。



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