銀の月夜に願う想い
部屋に帰ったレリアはいつにもましてぼんやりとしていた。
そんなレリアにミースが近寄る。
「お嬢様…あの……」
遠慮げに声をかけてくる彼女にレリアは緩慢と振り向く。
まるで人形のような彼女の様子にミースは困惑したような顔をした。
「お嬢様…?」
「あぁ……あの人が来たのね…」
ぼうっと虚ろな瞳で呟いたレリアは部屋を出ていく。
ミースが驚いた顔をした。
「誰かっ!お嬢様が!」
ミースは大きな声を発する。後ろの騒ぎも耳に届かないレリアは、纏わりつくドレスの裾をそのまま、虚ろな表情で走った。
しかし、北の塔と他の塔を繋ぐ廊下の中程でレリアはピタリと止まった。
そのレリアの目の前には一つの人影がある。
「闇を愛せますか……血の一族の方」
光を纏った金色の瞳が問う。その人影はレリアに優雅な会釈をした。
「我らが主の娘君……レーア姫。お会いしたかった」
「お母様の使者とはあなたですか?」
跪いて手の甲に口を寄せてくるその人をレリアは見る。漆黒の髪は愛する母と同じ色で、瞳は紅い。
「はい、姫君。噂通り美しい姫にお育ちだ」
「ここで私たちは赤の他人です。それはご了承下さい」
「承知しております、我らが姫君。あなたの窮地にはすぐに飛んで参ります…」
頭を垂れた人影は裾を翻して去っていく。
レリアは彼に纏わりつく闇の気配が薄れていくことに名残惜しさを覚えた。
いつも光の気配だけ感じているため、同じ闇の気配が愛しい。
彼がいた時だけレリアは水を得た魚のような気分だった。
ここにいることに幸せを感じてはいるけれど、私が生きる世界はここではない。
今、『彼』と一緒にいて分かった。
「私は……」
フッと口が弧の形を描く。
私は。
闇の王女様。